葦田 慶太
私の理想なコンビニエンスストア
私達が様々な理想を抱くCVS(コンビニエンスストアー)業態は、24時間営業、3000品目の品揃えを実現し、現金自動預け払い機(ATM)、eコマースなどマルチメディア端末によりサービスを拡充しています。しかし、見方を変えればアイディアを出し尽くしてしまい商品やサービス、システムが飽和状態という考え方も否定できません。同じ商品、同じサービスとなれば消費者にとってはCVSのブランドは関係無くなり、利用しやすい場所にある、または家の近くにあるかなど店舗立地で違いが出てきます。そして、私はこの店舗立地について理想を抱くようになりました。家の近くにCVSがあれば良いなと思う消費者は多いだろうし、ここにCVSが欲しいと理想を抱いたことは一度ぐらいないでしょうか。もしCVSが移動式だったらこれらのニーズに全て応えることができます。この移動式CVSこそが私の理想です。
CVSにおいて店舗立地の重要性はあらゆるところで確信することができます。売上げは勿論のこと、プロモーションをするにも納品システムなどCVSを運営していくには欠かせない条件の一つです。そしてCVSの中心とも言えるフランチャイズシステムも立地戦略がなければ成り立たなかったのではないかと思うのです。簡単に考えれば立地が悪いと、比例して売上げも下降します。すると本部と交わした契約以上の負担がフランチャイジーにかかることになり、加盟店側が本部に魅力を感じなくなればシステム自体の崩壊も考えられます。このような連鎖が起こり出すとフランチャイズシステムを基盤に広げてきた全国展開が不可能になると同時に、消費者の欠乏状態にも対応できなくなり「いつでも、どこでも」という業態の特徴が霞んできます。
もし、私の理想通りの移動式CVSができたとするならば、業態の特徴として挙げた「いつでも、どこでも」がそのまま当てはまるでしょう。まず店舗が自由に動くという事は、悪条件立地から好条件立地への移動も簡単にでき、フランチャイジーの負担が軽減されます。そして、私が一番期待しているのは、災害時やイベント時での活躍です。災害時でライフラインが寸断され生活基盤を失いかけた時に、救援物資と同じようにCVSが一軒あれば、どれだけ役に立つことでしょうか。また、イベント時ではCVSがあっても一店舗では補えないなどの理由で仮設テントを設けて販売活動を行っていますが、代わりに移動式CVSを設置すれば消費者の欲望を満たすことは可能になります。例えば2002年に行われるサッカーワールドカップの会場やコンサート会場、博覧会など期間限定の場合、大学や病院、商業施設内にある特殊立地店舗を超えた超特殊立地店舗になることでしょう。
ここで少し現実に振り返り、実際このような移動式CVSを作ることは可能なのかどうか考えてみると、非常に困難であることがわかります。しかし、あるホテルの完成が理想を現実に近づけてくれました。そのホテルには「モジュール工法」という低コストで素早く建設でき、場合によっては解体して身軽に移動できる全く新しいコンテナ式建築方法が使用されていました。コンテナ自体を店舗の一部と考え、パーツを合わせていくだけなのです。この建築方法をCVSでも生かせれば移動式CVSの完成は遠い未来の話ではなくなります。それに、平均的な売り場面積の100uの店で、1800万〜2000万円程度かかるとされている建設費も新工法により10%〜20%のコスト削減が可能とされています。また、出店決定から開店までの時間も短縮できるので営業日数が増え売上増加にも直接関係してきます。このようにCVSが屋台のように動き回ることができれば、新しい利便性を追求するのは容易ではないでしょうか。と言っても固定式のCVSを全部移動式に変える必要はないのです。その理由は、地域に密着し、信頼される店舗づくりなど固定式が果たす役割も大きいからです。移動式はこれら基盤の上に特別なものとして存在するのです。固定式から作り出された信頼性イメージは突如地域に現れた移動式を助け、今度は逆に移動式で得た社会的評価が固定式へと反響をよび、結果的には好連鎖が生まれます。これこそが理想としている固定式と移動式の良い関係なのです。
ところが、この移動式店舗が抱える問題は大きい。ひとつ目は企業側にかかる負担が大きいということです。特に私が理想としているイベント会場や災害時での店舗設営は、非常事態故に想像以上の負担がかかることになります。例えば土地の確保、店舗運搬、地域との共存などです。ですから最初の問題として挙げるのは、企業側が積極的に移動式CVS計画に参加するかどうかです。そしてふたつ目の問題は、上記でも述べましたが運搬です。陸送を行う場合、道路に関する規制により、日本国内で陸送できる物の大きさには限界がありますし、また細かい道に接している土地などにはこの工法は利用できません。それ以外の方法だとコストが莫大にかかってしまう恐れがありますし、仮に移動ができたとしても、普段私達が利用しているCVSと全く同じ店舗が作れるのかどうかです。災害時であれば、商品搬入やネットワークシステム、マルチメディア端末などのエネルギー源となるライフラインは無いと考えた方が良いでしょう。このような状況下では、店舗自身でエネルギーを作り出すことが前提条件におかれます。消費者にとって同じ商標をあげて開店しているからには、商品やサービスが固定式CVSと同じでなければ顧客満足を得ることはできません。ですから移動型店舗といっても妥協は許されないのです。多くの問題を抱えているが、移動した土地での売上げが移動コストを上回った時「いつでも、どこでも、どんな商品でも」というCVS業態最大の利点が浮かび上がってきます。
現在、女性をターゲットにした店舗作り、電子商取引を積極的に導入し売り場を広げずサービスの拡充を図るCVSなど様々なスタイルで消費者に存在をアピールしています。その一方、業態の飽和、異業種との競合激化、店舗乱立が隠し切れない事実です。「コンビニ」文化として日本に定着した今、これまで便利だと感じられたものが、消費者にとってもう当然のこととなり、新しい利便性を追求しなければならなくなったというのも紛れもない事実です。そんな中、銀行の破たんや大手百貨店の閉鎖により、今まで手に入らなかったような一番立地がねらえるようになりました。より良い場所、埋もれた適地を求めて店舗を身軽に移動できれば、それこそ上記で話してきたような移動式CVSが現実の話となれば、消費者の即時性ニーズにも対応できると同時に、業態の活性化にも繋がります。私の理想は移動式CVSですが、言いかたを変えれば100uほどの立地をどう消費者に提供するかなのです。私の移動式CVSはその一例に過ぎません。
<参考文献>
日経流通新聞 2001年4月19日 (木曜日) 1面
日経流通新聞 2001年5月17日 (木曜日) 1面
日経流通新聞 2001年7月26日 (木曜日) 1〜5面